WONDER WOLF WORLD

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  指輪が繋ぐモノ。  

老婆が左の薬指をみて

―アンタ子供ハ何人イルノ?―と問う。

僕は

―ソンナモノイマセン、
ダイイチ結婚ンシテマセン。―と答える。

老婆は苦い顔をして更に言葉を続ける。

―ナラバ今スグ左ノ薬指カラ指輪ヲハズスンダヨ、
イイカイ、アンタソンナコトジャ婚期ヲ逃ガシチマウ。
アンタニ声ヲカケヨウト思ッテル誰カガイタトシテモ
ソレヲ見タダケデミンナ逃ゲテイク。―

僕は思わず笑った。

指輪をしてない時からみんな逃げていったと言うのに?
それでも老婆の声が呪文のように僕の胸に引っかかる。

それでもコレははずせない。

僕の恋心は夢に預けてしまったから。全部預けてしまったから。

老婆の呪文よりもっと強くて、深くて、
非道く魅力的な恐ろしい呪文にすっかりかかってしまったから。

そんな愛もあるからこそ
不思議が存在することを
老婆はキット知らない。

例えこの星が壊れて 宇宙の塵と成り果てても
ソコに存在したという事実は 変えられないように
僕という存在は変えられない。

この指輪は手錠。
僕と夢を繋ぐ手錠。

銀に光る骨の手でシッカリつなぎ止めて。
あの世とこの世の境目を。

そしてソコが僕の夢の在処。

オイデオイデと
風に揺らぐ旗のように
時に激しく、時にやさしく手招きして
妖はいつでも僕を待っていてくれるから。

それが魔道。

惑うコト無く

僕の心はソコへ流れていく。


◆2002.7.9◆

─指輪とはある種の契約の枷─
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